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JAXA H2Aロケット とは 特徴 性能 制約 高度化計画


JAXA H2Aロケット 高度化計画



人工衛星はロケットから分離後、自らの燃料を使ってエンジンを動かし、自力で目的の軌道を目指す為、赤道上空の静止軌道を目指す静止衛星は、赤道付近の仏領ギアナにある欧州のアリアン5の発射場のように、発射場が低緯度で赤道に近いほど燃料の消費が少なくて済み、その分だけ衛星の寿命が長く、北緯30度にある日本の種子島宇宙センター(鹿児島県)のように、高緯度から打ち上げると燃料を余計に消費し、その分衛星の寿命が短くなります


そこで、JAXAと三菱重工業は、2011年度にH2Aの改良に着手、2段エンジンの燃料消費を効率化するなどの工夫により、静止軌道のすぐ近くまで飛行してから衛星を分離できるように改良、軌道投入時の衛星側の燃料消費が大幅に減少し、アリアン5とほぼ同水準になるということです




JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 飛行計画



カナダTelesat(テレサット)社の通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGEを搭載した、H2Aロケット 29号機 (H-IIA F29) は、種子島宇宙センター大型ロケット第1射点より打ち上げられた後、まもなく機体のピッチ面を方位角91度へ向けた後、飛行計画に従って太平洋上を飛行します


打上げ約1分56秒後に固体ロケットブースタの燃焼を終了、約2分7秒後及び約2分10秒後(以下、時間は打上げ後の経過時間)の2回に分けて固体ロケットブースタを分離、約3分25秒後に衛星フェアリングを分離、約6分40秒後、第1段主エンジンの燃焼を停止、約6分48秒後に第1段を分離します


約6分54秒後には、第2段エンジン第1回目の燃焼を開始、約11分7秒後に燃焼を停止、慣性飛行を続けた後、約22分46秒後に第2段エンジン第2回目の燃焼を開始、約26分37秒後に燃焼を停止します


これまでのH2Aロケットの打ち上げシーケンスでは、この後搭載衛星を分離し、打ち上げ終了となるのですが、基幹ロケット高度化開発の成果(高度化仕様)として、H2A第2段ロケットは、この後も衛星を搭載したまま、さらに慣性飛行を続け、約4時間22分45秒後、第2段エンジン第3回目の燃焼を開始、約4時間23分31秒後に燃焼を停止、約4時間26分56秒後に近地点高度約3131km、遠地点高度約35586km、軌道傾斜角19.2度の静止トランスファー軌道上でTelstar 12 VANTAGEを分離します


従来のH2Aロケットの打ち上げでは、H2A第2段ロケットの第2回目の燃焼を終えた後、搭載衛星は、搭載衛星の燃料を使用して、自力で静止トランスファー軌道に乗らなくてはならず、衛星の燃料を余分に消費、その分衛星の寿命が短くなり、日本より赤道に近い射場を持つ欧米に比べ、日本が不利となる点でしたが、今回の高度化仕様の成果として、衛星の燃料消費、衛星寿命の点でも、欧米と肩を並べることとなりました



JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化仕様) 形状(H2A204型)

JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化仕様) 形状(H2A204型)

JAXA 「平成27年度 H-IIAロケット29号機 打上げ計画書」 より




項番 事 象 打上げ後
経過時間
高度 慣性速度
1 リフトオフ 0分 0秒 0 km 0.4 km/s
2 固体ロケットブースタ 燃焼終了 1分 56秒 68 km 2.3 km/s
3 固体ロケットブースタ第1ペア分離 2分 7秒 79 km 2.3 km/s
4 固体ロケットブースタ第2ペア分離 2分 10秒 83 km 2.3 km/s
5 衛星フェアリング分離 3分 25秒 150 km 2.9 km/s
6 第1段主エンジン燃焼停止(MECO) 6分 40秒 242 km 6.1 km/s
7 第1段・第2段分離 6分 48秒 245 km 6.1 km/s
8 第2段エンジン第1回始動(SEIG1) 6分 54秒 247 km 6.1 km/s
9 第2段エンジン第1回燃焼停止(SECO1) 11分 7秒 262 km 7.7 km/s
10 第2段エンジン第2回始動(SEIG2) 22分 46秒 189 km 7.8 km/s
11 第2段エンジン第2回燃焼停止(SECO2) 26分 37秒 197 km 10.2 km/s
12 第2段エンジン第3回始動(SEIG3) 4時 22分 45秒 33720 km 1.3 km/s
13 第2段エンジン第3回燃焼停止(SECO3) 4時 23分 31秒 33754 km 2.1 km/s
14 Telstar 12 VANTAGE分離 4時 26分 56秒 33902 km 2.1 km/s



JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 飛行経路




JAXA H2Aロケット 打ち上げ基準



JAXAでは、全長 53メートル、重さ 286トンの H2Aロケットを安全、確実に打ち上げる為、打ち上げ基準が設定されています

従来の基準では、氷結層雲について、その厚さ 1.8km以内のみで判断していましたが、今回の打ち上げから、氷結層雲に関する基準が改められ、今後は、厚さ1.8km以上でも、レーダーで雲の内部状態を測定、反射強度が規定以下であれば、打ち上げ可能となります

これまで、H2Aロケットの打ち上げでは、氷結層雲による打ち上げ延期が 8機で発生していましたが、新基準で評価すると、その半分は打ち上げが可能なケースだったとのことで、今後は、打ち上げ延期の減少が期待され、コストダウンにも繋がります

2016年(平成28年)2月12日(金)に予定していた、H2Aロケット 30号機 の打ち上げでは、「射場近辺に規定以上の氷結層を含む雲(別紙参照)の発生が予想されること、および打上げ作業に支障のある強風が予想されることから、打上げ」が延期となりました

(※.「JAXA H2Aロケット 30号機 X線天文衛星 ASTRO-H (すざく後継機) 米国商業超小型衛星 等 打ち上げ」参照)



打ち上げ基準
氷結層雲の厚さ 1.8km以内 ただし、厚さ1.8km以上でも、レーダーで雲の内部状態を測定、反射強度が規定以下であれば、打ち上げ可能 (H2Aロケット 30号機 打ち上げ時から適用)
風速 (最大瞬間風速) 20.9m/s

JAXA H2Aロケット 打ち上げ天候制約(氷結層を含む雲)の見直しについて




JAXA H2Aロケット 打上げ天候制約 (氷結層を含む雲) について



氷結層とは、雲の中で温度が0度から-20度になっている部分のことで、雲の中に氷の粒の層があるような状態になっています

氷結層を含む雲では、その氷の粒が、対流によりぶつかり合うことで電気が発生し、対流が激しい場合は落雷へとつながることが知られており、そこをロケットが高速で通過することにより雷を誘発し、発生した雷によって電子機器などが影響を受け、正常な飛行ができなくなる可能性があります

雲が薄い場合は、雷が発生する前に通過できるとされ、その閾値として、鉛直の厚さ、1.8km(1800m)を判断基準として設定しています



JAXA 打上げ天候制約 (氷結層を含む雲) について




雷に係る制約条件


1. ノミナル飛行経路(※1)から 20km以内に発雷が検知された場合、30分間は発射してはならない。
ただし、発射時にノミナル飛行経路から20km以内に雷雲、積雲及びかなとこ雲がない場合はこの限りではない。
2. 発射時15分間は、射点近傍の地表電界強度が -2kV/m以上、+2kV/m以下の範囲にあること。
3. 射点を中心として半径10km以内に雷雲のないこと。
4. ノミナル飛行経路が以下を通過する場合には発射を行わないこと。
a. 雷雲、積乱雲及びかなとこ雲から 20km以内
b. 氷結層を含み、鉛直の厚さが1.8km以上の雲
c. 雲頂高度3km以上の雲を伴う寒冷前線やスコールライン

JAXA H-IIAロケット27号機による情報収集衛星 レーダ予備機の打上げ中止について 三菱重工業株式会社 宇宙航空研究開発機構 2015年1月29日 02:00」 より


※1, ノミナル飛行経路 とは
測定器などで実測された値の平均値の事をノミナル値といい、実際にロケットが地上を離れ上昇していく際は、軌道を細かく調整しながら飛行していて、その際の平均的な飛行経路の事をノミナル飛行経路といいます




JAXA H2Aロケット 再打ち上げ予定日について



翌日ではなく3日後へと延期になるのは、打ち上げ日を関係機関と調整して決めている為です
決定日から中2日を開ける取り決めになっており、打ち上げ延期決定日から最短でも3日後になります

その為、例え翌日、翌々日の天候が良かったとしても、この取り決めにより打ち上げることはできません




基幹ロケット開発の歴史



日本では、純国産の H2A ロケット 開発以降、世界最高水準の打ち上げ成功率を誇っています



日本では、純国産の H2A ロケット 開発以降、世界最高水準の打ち上げ成功率を誇っています

JAXA H3ロケット 記者説明会を実施しました 2016年7月20日 」 より


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2015年10月2日 世界に追いつけるか 「高度化」H-IIAロケット、ここに誕生す (4) これからがH-IIAと日本の商業打ち上げのはじまり(後編) マイナビニュース 2015/10/02

 三菱重工の二村さんは「高度化第2段を手に入れたことで、衛星側の負担が軽減できるようになった。これまで、アリアンは赤道から打ち上げられるため、多くの衛星はそれを基準としており、高緯度にある種子島からの打ち上げでは不利だった。しかし、今回の高度化でそれを補うことができ、アリアンなどと同等に近いところまでもってくることができた」と、意気込む。
 11月24日の打ち上げが成功し、高度化で使われた技術が実証されれば、H-IIAや日本の商業打ち上げビジネスにとって、大きな一歩になることはまちがいない。
 しかし重要なのは、この高度化とは、あくまでこれまでのH-IIAと比較して高度になるという意味であり、世界の他のロケットと比べて高度になるというわけではない。むしろ、ようやく同じ土俵に立てる「標準化」といったほうがふさわしい。


2015年10月2日 世界に追いつけるか 「高度化」H-IIAロケット、ここに誕生す (3) これからがH-IIAと日本の商業打ち上げのはじまり(前編) マイナビニュース 2015/10/02

 2015年11月24日に打ち上げが予定されているH-IIAロケット29号機には、「高度化」と呼ばれる改良が初めて施されている。この高度化により、これまでH-IIAが抱えていた問題が解決され、世界のロケットとほぼ同じ地位に立つことができるようになった。
 連載の第1回では、従来のH-IIAが抱えていた問題について紹介した。第2回では、その問題を解決する代表的な3つの方法と、そして高度化が選ばれた理由について紹介した。
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2015年10月1日 世界に追いつけるか 「高度化」H-IIAロケット、ここに誕生す (2) 大荷物を部屋の中まで運び入れてくれるようなロケットに マイナビニュース 2015/10/01

 2015年11月24日に打ち上げが予定されているH-IIAロケット29号機には、「高度化」と呼ばれる改良が初めて施されている。この高度化により、これまでH-IIAが抱えていた問題のひとつが解決され、世界の他のロケットと、ほぼ同じ地位に立つことができるようになった。
 連載の第1回では、従来のH-IIAが抱えていた問題について紹介した。
 第2回となる今回は、その問題を解決する代表的な3つの方法と、その中から高度化で採用された方法が選ばれた理由について紹介したい。


2015年9月30日 世界に追いつけるか 「高度化」H-IIAロケット、ここに誕生す (1) H-IIAが抱えていた大きな問題 マイナビニュース 2015/09/30

 三菱重工業は2015年8月28日、同社飛島工場(愛知県海部郡飛島村)において、H-IIAロケット29号機のコア機体を公開した。ロケットはこの後、種子島宇宙センターで他の部品などと結合され、カナダのテレサット社の通信衛星「テルスター12ヴァンテージ」を載せ、11月24日に打ち上げられる予定となっている。
 今回のH-IIAは、固体ロケット・ブースター(SRB-A)を4基装備する「204」型と呼ばれる構成で打ち上げられる。204型が使われたのは2006年の11号機以来のことで、実に9年ぶりとなる。
 そしてもうひとつ、今回のH-IIAには「高度化」と呼ばれる改良が施されている。この高度化により、これまでH-IIAが抱えていた問題が解決され、世界のロケットとほぼ同じ地位に立つことができるようになった。


2015年6月10日 【日本の議論】次世代ロケットH3は海外をどこまで追撃できるのか? 打ち上げ能力はH2Aの1・5倍 費用は半分 産経 2015.6.10 07:00

 平成32年の実用化を目指して開発中の次世代大型ロケット「H3」(仮称)。国産大型ロケット「H2A」の後継機となるが、打ち上げ能力は1・5倍、費用は約半分という高性能を誇る。これまで世界最高水準の打ち上げ成功率を誇りながら、欧州などの海外勢に市場競争で劣勢を強いられてきた日本。この秋には、つなぎとして改良型H2Aも投入されるが、H3は大きな期待を背負っている。
 世界市場に「切り込み」
 「海外の衛星の打ち上げ経験を積むことで、世界市場に参入する基盤を強化していく」
 H2Aを打ち上げている三菱重工業の幹部は3月の会見でこう力説し、世界を視野に商業打ち上げ事業の拡大を目指す姿勢を鮮明にした。同社はカナダ企業の通信放送衛星に加え、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイからも地球観測衛星の打ち上げを3月に受注しており、国際的な認知度は高まってきた。


2015年1月29日 JAXA H-IIAロケット27号機による情報収集衛星 レーダ予備機の打上げ中止について 三菱重工業株式会社 宇宙航空研究開発機構 2015年1月29日 02:00

 三菱重工業株式会社及び宇宙航空研究開発機構は、種子島宇宙センターから情報収集衛星 レーダ予備機を搭載したH-IIAロケット27号機(H-IIA・F27)の打上げを平成27年1月29日(木)に予定しておりましたが、打上げ時間帯にかけて射場近辺に規定以上の氷結層を含む雲(別紙参照)の発生が予想されることから、打上げを中止いたします。
 新たな打上げ日については、今後の天候状況等を踏まえ、決定し次第お知らせいたします。


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