カナダのTelesat(テレサット)社は、世界4位の衛星運用会社で、今回受注したのは、南米、欧州などの通信、放送事業に使われる予定の重量約 4.9トン、本格的な大型通信放送衛星で、受注額は非公表ですが、100億円前後とみられています
JAXA H2Aロケット 29号機 打ち上げ 成功
H2Aロケット 29号機 は、打ち上げ直前 (打ち上げ16分前) に、警戒監視区域内で船舶が確認されたため、カウントダウンを中段、その後安全が確認されたため、打ち上げ
15分前からのカウントダウンを再実行する為、打ち上げ時刻を、2015年11月24日15時50分00秒に変更された後、予定通りの時間に、正常に打ち上げられました
打上げ後約 4時間27分後の、2015年11月24日20時17分、通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGE (テルスター12 バンテージ)
を分離、予定の軌道に投入し、H2Aロケット 29号機 の打ち上げは成功しました
JAXA H2Aロケット 29号機 見どころ ⇒ 高度化仕様
これまでの H2A (従来使用機) では、静止衛星を打ち上げる場合でも、打ち上げ約 30分後の高度約 300キロほどで衛星を切り離し、その後、衛星は、自分自身に搭載された燃料を使って静止軌道に入っていました
また、北緯 30度に位置する種子島から赤道を目指した場合、赤道との傾斜角が大きくなり、その軌道のずれ(傾斜)を修正するのにも、衛星は多くの燃料消費を強いられ、赤道近くの南米ギアナから打ち上げる為、軌道(傾斜)修正用の燃料が少なくて済む、欧州の大型機アリアン
5等に比べ不利な点でした
JAXAによりますと、現在の静止衛星は、「赤道付近での打ち上げを前提に設計され、従来のH2Aでは対応できない衛星が市場に多く出回っている」とのことで、従来仕様の
H2A に搭載できる静止衛星は、世界市場のわずか 7% しか存在しなかったということです
H2A 高度化仕様では、
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1. |
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第 2段エンジンの噴射を従来の 2回から 3回に増やす |
2. |
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オレンジ色の第 2段ロケットの機体表面(燃料タンクの表面)を白く塗装 |
3. |
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飛行中、機体をゆっくり回転させ(バーベキューロール)、太陽光の加熱による燃料の蒸発するのを抑え、太陽光が同じ面に当たり続けることによる加熱で機器が故障するのを防止 |
4. |
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燃料の有効活用 |
5. |
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エンジンの冷却機能の改善 |
6. |
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エンジンのパワーの細かい制御を可能にする |
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等、長時間の飛行に対応でき、衛星を目指す軌道に精度良く投入できるよう改良した結果、搭載可能な静止衛星は、世界市場の約半数をカバーできるようになりました
今回の H2A 高度化仕様機では、衛星の切り離しは、打ち上げから約4時間半後、静止軌道近くの静止トランスファー軌道※上にまで、衛星を運びます
ロシアの主力機プロトンでは、高緯度のカザフスタンから打ち上げるという、日本よりさらに不利な条件を克服するため、9時間超に及ぶ飛行を可能にしています
JAXAでは、今後も、多様な需要に応えるため、今後も従来型を併用する一方、H2Aのさらなる改良も進め、飛行中や分離時に衛星に与える衝撃を世界最小水準に抑える取り組みを進めとともに、航法センサーを搭載して位置と速度の情報を機体が把握、地上のレーダーを不要にするコスト削減策も目指しています
※.静止トランスファー軌道
静止軌道に衛星を投入する際の準備軌道のことで、自動車に例えると高速道路に流入する際の加速車線の様な位置づけになります
今回のH2Aロケット 29号機 では、近地点高度約3131km、遠地点高度約35586km、軌道傾斜角19.2度に衛星を投入します |
JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 飛行計画
カナダTelesat(テレサット)社の通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGEを搭載した、H2Aロケット 29号機 (H-IIA F29)
は、種子島宇宙センター大型ロケット第1射点より打ち上げられた後、まもなく機体のピッチ面を方位角91度へ向けた後、飛行計画に従って太平洋上を飛行します
打上げ約1分56秒後に固体ロケットブースタの燃焼を終了、約2分7秒後及び約2分10秒後(以下、時間は打上げ後の経過時間)の2回に分けて固体ロケットブースタを分離、約3分25秒後に衛星フェアリングを分離、約6分40秒後、第1段主エンジンの燃焼を停止、約6分48秒後に第1段を分離します
約6分54秒後には、第2段エンジン第1回目の燃焼を開始、約11分7秒後に燃焼を停止、慣性飛行を続けた後、約22分46秒後に第2段エンジン第2回目の燃焼を開始、約26分37秒後に燃焼を停止します
これまでのH2Aロケットの打ち上げシーケンスでは、この後搭載衛星を分離し、打ち上げ終了となりました
今回の基幹ロケット高度化開発の成果(高度化仕様)として、H2A第2段ロケットは、この後も衛星を搭載したまま、さらに慣性飛行を続け、約4時間22分45秒後、第2段エンジン第3回目の燃焼を開始、約4時間23分31秒後に燃焼を停止、約4時間26分56秒後に近地点高度約3131km、遠地点高度約35586km、軌道傾斜角19.2度の静止トランスファー軌道上でTelstar
12 VANTAGEを分離します
従来のH2Aロケットの打ち上げでは、H2A第2段ロケットの第2回目の燃焼を終えた後、搭載衛星は、搭載衛星の燃料を使用して、自力で静止トランスファー軌道に乗らなくてはならず、衛星の燃料を余分に消費、その分衛星の寿命が短くなり、日本より赤道に近い射場を持つ欧米に比べ、日本が不利となる点でした
今回の高度化仕様の成果として、衛星の燃料消費、衛星寿命の点でも、欧米と肩を並べることとなりました
JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 主要諸元
名称 |
H-ⅡAロケット29号機 |
全長 |
53 m |
全備質量 |
442 t (人工衛星の質量は含まず) |
誘導方式 |
慣性誘導方式 |
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第1段 |
固体ロケット
ブースタ |
第2段
(高度化仕様) |
衛星
フェアリング |
全長 |
37 m |
15 m |
11 m |
12 m |
外径 |
4.0 m |
2.5 m |
4.0 m |
4.0 m |
質量 |
114 t |
306 t (4本分) |
20 t |
1.4 t |
推進薬質量 |
101 t |
264 t (4本分) |
17 t |
- |
推力 |
1,100 kN |
9,050 kN |
137 kN |
- |
燃焼時間 |
390 |
116 |
530 |
- |
推進薬種類 |
液体水素
液体酸素 |
ポリブタジエン系
コンポジット
固体推進薬 |
液体水素
液体酸素 |
- |
推進薬供給方式 |
ターボポンプ |
- |
ターボポンプ |
- |
比推力 |
440 s |
283.6 s |
448 s |
- |
姿勢制御方式 |
ジンバル
補助エンジン |
可動ノズル |
ジンバル
ガスジェット装置 |
- |
主 要 搭 載
電 子 装 置 |
誘導制御系機器
テレメータ送信機 |
- |
誘導制御系機器
レーダトランスポンダ
テレメータ送信機
指令破壊装置 |
- |
推力、比推力は、真空中 固体ロケットブースタは最大推力で規定
JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 打ち上げシーケンス
項番 |
事 象 |
打上げ後
経過時間 |
高度 |
慣性速度 |
1 |
リフトオフ |
0 分 0 秒 |
0 km |
0.4 km/s |
2 |
固体ロケットブースタ 燃焼終了 |
1 分 56 秒 |
68 km |
2.3 km/s |
3 |
固体ロケットブースタ第1ペア分離 |
2 分 7 秒 |
79 km |
2.3 km/s |
4 |
固体ロケットブースタ第2ペア分離 |
2 分 10 秒 |
83 km |
2.3 km/s |
5 |
衛星フェアリング分離 |
3 分 25 秒 |
150 km |
2.9 km/s |
6 |
第1段主エンジン燃焼停止(MECO) |
6 分 40 秒 |
242 km |
6.1 km/s |
7 |
第1段・第2段分離 |
6 分 48 秒 |
245 km |
6.1 km/s |
8 |
第2段エンジン第1回始動(SEIG1) |
6 分 54 秒 |
247 km |
6.1 km/s |
9 |
第2段エンジン第1回燃焼停止(SECO1) |
11 分 7 秒 |
262 km |
7.7 km/s |
10 |
第2段エンジン第2回始動(SEIG2) |
22 分 46 秒 |
189 km |
7.8 km/s |
11 |
第2段エンジン第2回燃焼停止(SECO2) |
26 分 37 秒 |
197 km |
10.2 km/s |
12 |
第2段エンジン第3回始動(SEIG3) |
4 時 22 分 45 秒 |
33720 km |
1.3 km/s |
13 |
第2段エンジン第3回燃焼停止(SECO3) |
4 時 23 分 31 秒 |
33754 km |
2.1 km/s |
14 |
Telstar 12 VANTAGE分離 |
4 時 26 分 56 秒 |
33902 km |
2.1 km/s |
JAXA H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 飛行経路
JAXA H2Aロケット 29号機 搭載 通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGE (カナダTelesat(テレサット)社) 主要諸元
JAXA H2Aロケット 29号機 搭載 通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGE (カナダTelesat(テレサット)社)は、Telesat(テレサット)社が運用する西経15°の通信放送衛星
Telstar 12の後継機で、南アメリカ、大西洋、EMEA(Europe, the Middle East and Africa)の広範なエリアをカバーする通信放送衛星です
通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGE 軌道上外観図
JAXA 「平成27年度 H-IIAロケット29号機 打上げ計画書」 より
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項目 |
諸元 |
名称 |
Telstar 12 VANTAGE |
予定軌道 (種類) |
静止軌道 (西経約15度) |
質量 |
約4900 kg |
ミッション機器 |
Kuバンドトランスポンダ
最大52台 |
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JAXA H2Aロケット 29号機 落下物 落下予想区域 時間
海面落下時間帯 (打上げ後) |
固体ロケットブースタ |
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約7~11分後 |
衛星フェアリング |
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約11~26分後 |
第1段 |
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約15~32分後 |
H2Aロケット H2Bロケット 打ち上げ回数 成功率
今回の「H2Aロケット 29号機 (高度化技術実証機) 通信放送衛星 Telstar 12 VANTAGE (テルスター12 バンテージ) の打ち上げにより、H2Aとしての打ち上げ成功回数は、29機打ち上げた中、28機の成功で、成功率は96.5パーセント、同じエンジン
(LE-7A ※) を使用している「H2B」を合わせた成功回数は、34機打ち上げた中、33機の成功で、成功率は 97.0 % となりました
国際的な信頼性の基準は 95 % とされています
※ LE-7A
LE-7Aは、H-IIロケット第一段に使われていたLE-7エンジンの改良型で、宇宙開発事業団(現JAXA)が、三菱重工業、石川島播磨重工業と共に開発した液体燃料ロケットエンジンで、H-IIAロケットの第一段に1基、H-IIBロケットの第一段には2基使用されています |
H2AとH2Bは、三菱重工業が製造、H2A13号機からは打ち上げ業務も、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から三菱重工業に移管されています |
世界の主力大型ロケット 打ち上げ回数 成功率
日本は、大型ロケット打ち上げの成功率では、世界でもトップクラスですが、打ち上げ回数では、主要各国 地域より1桁少ないのが実情です
国 地域 |
ロケット名 |
打上回数 |
成功回数 |
成功率 |
日本 |
H2A |
29 |
28 |
96.5 % |
H2B |
5 |
5 |
100 % |
H2A + H2B |
34 |
33 |
97.0 % |
アメリカ |
アトラス |
387 |
340 |
87.9 % |
ファルコン |
19 |
15 |
78.9 % |
ヨーロッバ |
アリアン |
221 |
210 |
95.0 % |
ロシア |
プロトン |
401 |
354 |
88.3 % |
中国 |
長征 |
201 |
191 |
95.0 % |
諸外国のデーターは、「 2015年1月21日現在 三菱重工業調べ 」
打ち上げ ライブ中継 / JAXA 種子島ライブカメラ
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