弾道ミサイル防衛 (BMD) とは 日本の弾道ミサイル防衛
弾道ミサイル防衛 (BMD : Ballistic Missile Defense) とは、地上、もしくは、水中から発射され、放物線(弾道)を描いて飛翔してくる弾道ミサイルから国土を防衛する為のシステム、および、その体系のことです
弾道ミサイル防衛 は、弾道ミサイルが目的地に着弾するまでの道程を、その飛翔特性から
「上昇段階 (ブースト フェーズ)」
「中間段階 (ミッドコース フェーズ)」
「終末段階 (ターミナル フェーズ)」
の 3段階に分けて捉えるのが一般的で、弾道ミサイル防衛についても、それぞれのフェーズ毎に異なった手段が用意されています
航空自衛隊 航空警戒管制部隊 と 地対空誘導弾部隊
「 防衛省 [JASDF] 航空自衛隊 航空自衛隊の概要 」 より
上昇段階 (ブースト フェーズ) での 弾道ミサイル防衛
ブースト段階での迎撃の利点は、ミサイル自体がまだ低速で、また、弾頭を切り離す前の為、目標が大きいことから、他のフェーズに比べ、迎撃が比較的容易であることがあげられます
欠点としては、迎撃手段が常に対応可能な位置にいるとは限らないことがあげられ、逆に言うと、攻撃側が自由に移動できる場合、それに応じて迎撃手段を常に敵地近くに配置しておく必要があり、迎撃側の方が大きな負担を強いられることになります
上昇段階 (ブースト フェーズ) での 弾道ミサイル防衛に用いられる兵器として代表的なものには、ABL (Airborne Laser) 、KEI
(Kinetic Energy Interceptor) があります
ABL (Airborne Laser)
ABL (Airborne Laser 空中発射レーザー) は、メガワット級の酸素-ヨウ素化学レーザー(COIL)を使用し、ブースト段階の弾道ミサイルを破壊
無力化しようとするもので、アメリカ空軍において、ABL計画として開発が続けられ、ミサイル迎撃の実用試験用機 として YAL-1A等が造られています
これは、弾道ミサイルが上昇中に、高エネルギーのレーザー光を照射する事により、弾道ミサイルに高熱を加え、弾道ミサイルの燃料タンク部分外板に負荷を掛けて、燃料タンクを自爆させる、もしくは、外板を熱変形させることにより、正常な飛行をできなくさせ、無力化する兵器です
米ABL計画は、技術開発としては継続していますが、米国防予算見直しにより、2011年12月12日、米国防総省はYAL-1Aをモスボール保存(mothballは衣料用防虫剤、再使用を考慮した保存)することを決定しています
日本においては、2018年度予算の概算要求で、迫撃砲弾や小型無人機などを迎撃対象に含んだ高出力レーザーシステムの研究費として、87億円が計上されています
「 弾道ミサイル レーザー迎撃兵器開発 防衛省 2018年度 概算要求 」 参照
KEI (Kinetic Energy Interceptor)
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KEI (Kinetic Energy Interceptor 運動エネルギー迎撃弾) は、3段式の固体ロケット・モーターを備えたミサイルで、中間段階
(ミッドコース フェーズ)で使用されるスタンダードミサイル3型(SM-3)を越える能力を付与するために、12m近くの長さを持つ大型のミサイルです
KEI は、迎撃ミサイルを弾道ミサイルに直撃させることによって目標を撃破する、運動エネルギー投射体(Kinetic projectile)迎撃ミサイルで、移動車両による地上発射型と、艦船搭載のVLS(垂直発射システム)から発射する艦船搭載型の開発が進められています
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左:SM-3 右:Kinetic Energy Interceptor
「 運動エネルギー迎撃弾 - Wikipedia 」 より
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中間段階 (ミッドコース フェーズ) での 弾道ミサイル防衛
弾道ミサイルが宇宙空間を慣性飛行している段階で迎撃するために使われる兵器としては、イージス弾道ミサイル防衛(BMD)システムの RIM-161
スタンダードミサイル3 (SM-3)、地上発射型のGBI(Ground Based Interceptor)があります
SM-3、GBIミサイルのいずれも、最終段階において、赤外線で目標を追尾、ロケット・スラスターで微調整しつつ、直撃による運動エネルギーで目標を撃破する運動エネルギー投射体を使用しており、SM-3ではLEAP
(Light weight Exo-Atmospheric Projectile:軽量大気圏外投射体)、GBIではEKV (Exo-Atmospheric
Kill Vehicle: 大気圏外迎撃体)と呼ばれています
イージス弾道ミサイル防衛(BMD)システム と SM-3 迎撃ミサイル
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イージスBMDでは、イージス艦が装備する防空システムであるイージスシステムを利用、弾道ミサイルを、ブースト段階から人工衛星、地上レーダー、イージス艦のAN/SPY-1レーダーにより探知
・ 追尾し、イージス艦から発射されたBMD用 スタンダードミサイル SM-3 によって大気圏外を飛行中の中間段階 (ミッドコース フェーズ)で運動エネルギー弾頭を直接衝突させることにより迎撃します
スタンダードミサイル SM-3 (RIM-161 スタンダード ミサイル3 (RIM-161 Standard Missile 3))は、中間段階
(ミッドコース フェーズ)での弾道ミサイル迎撃を目的とする艦船発射型弾道弾迎撃ミサイルです
製造業者 |
レイセオン、エアロジェット |
全長 |
6.55m |
直径 |
0.34m |
翼幅 |
1.57m |
最大高度 |
70-500km |
推進装置 |
第一段: MK 72ブースター、固体燃料ロケット(エアロジェット製)
第二段: MK 104固体燃料デュアル・スラスト・ロケット・モーター(DTRM)(エアロジェット製)
第三段: MK 136固体燃料第三段ロケット・モーター(TSRM)(ATK製)
第四段: 固体燃料軌道修正・姿勢制御装置(SDACS)(ATK製) |
誘導方式 |
GPS/INS/セミアクティブ・レーダー・ホーミング/パッシブ長波長赤外線シーカー(KW) |
弾頭 |
軽量大気圏外迎撃体 キネティック弾頭 |
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(上写真) ミサイル巡洋艦レイク・エリーから発射されるRIM-161スタンダード・ミサイル(SM-3) 「 スタンダードミサイル - Wikipedia 」 より
(下写真) 2007年12月18日ハワイ・カウアイ島沖で行われた発射試験JFTM-1にて太平洋ミサイル試射場から発射された模擬弾道ミサイルを目標としてSM-3ブロックIAを発射する海上自衛隊のミサイル護衛艦「こんごう」 「
RIM-161スタンダード・ミサイル3 - Wikipedia 」 より
イージスアショア (陸上型イージス) 弾道ミサイル防衛(BMD)システム
GBI (Ground Based Interceptor) 迎撃ミサイル
2004年7月、アラスカ州フォート・グリーリー基地にてサイロに装填中のGBI
「 GBI (ミサイル) - Wikipedia 」 より
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アメリカ合衆国のミサイル防衛システムでの中間段階 (ミッドコース フェーズ) での弾道ミサイル迎撃システムは、地上配備のGMD (Ground-based
Midcourse Defense) と海上配備のSMD (Sea-based Midcourse Defense) に大別されますが、GBI(Ground
Based Interceptor)は、地上配備のGMDに用いられる弾道弾迎撃ミサイルです
全長 |
16.8 m |
直径 |
1.27 m |
推進装置 |
3段式固体ロケット |
発射重量 |
12,700 kg |
弾頭 |
大気圏外迎撃体 EKV (Exoatmospheric Kill Vehicle) - 液体推進薬スラスター |
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終末段階 (ターミナル フェーズ) での 弾道ミサイル防衛
終末段階 (ターミナル フェーズ) は、目標となる弾道ミサイルが一旦宇宙空間を弾道飛行した後、大気圏に再突入している段階での迎撃で、使用される兵器としては、THAAD(Terminal
High Altitude Area Defense)、パトリオットPAC-3システムがあります
THAAD 迎撃ミサイルシステム
THAADミサイルの発射
「 THAADミサイル - Wikipedia 」 より
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THAADミサイル(サードミサイル Terminal High Altitude Area Defense missile, 終末高高度防衛ミサイル)は、アメリカ陸軍が開発した弾道弾迎撃ミサイルシステムで、弾道ミサイルが、その航程の終末段階にさしかかり、大気圏に再突入している終末段階
(ターミナル フェーズ) で、迎撃するための迎撃ミサイルシステムです
パトリオットPAC-3は、比較的小規模で展開しやすいかわりに、射程が短いため、高速で突入してくる中距離弾道ミサイルなどへの対処が難しく、また、迎撃に成功した場合でも地上への被害が大きくなるという問題があり、パトリオットPAC-3よりも高高度、成層圏よりも上の高度で目標を迎撃するために開発されたのがTHAADです
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開発 |
1987年 |
製造 |
2008年~ |
製造業者 |
ロッキード・マーティン |
全長 |
6.17m |
直径 |
0.37m |
重量 |
900kg (発射重量) |
射程 |
200km |
最大高度 |
40~150km |
弾頭 |
運動エネルギー弾 (KKV:Kinetic Kill Vehicle) |
弾頭速度 |
M7(2,500m/秒) |
推進方式 |
1段式固体ロケット |
誘導方式 |
1段目固体ロケット |
慣性誘導+アップデート |
弾頭 |
赤外線誘導 |
操舵方式 |
1段目固体ロケット |
TVC (推力偏向ノズル) |
弾頭 |
サイドスラスタ |
日本においても、北朝鮮弾道ミサイルに対応するため導入が検討されましたが、2017年、イージスアショア (陸上型イージス)との比較検討の結果、イージスアショア
の方が費用対効果に優れているとして、THAAD 迎撃ミサイルシステムの導入は見送られ、イージスアショア の導入が決定されました
パトリオット PAC-3 迎撃ミサイルシステム
パトリオットミサイル発射の瞬間
「 パトリオットミサイル - Wikipedia 」 より
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パトリオットミサイル(MIM-104 Patriot)は、アメリカのレイセオン社がMIM-14 ナイキ ハーキュリーズ 地対空ミサイルの後継としてアメリカ陸軍向けに開発した、広域防空用の地対空ミサイルシステムで、弾道ミサイル防衛では終末段階
(ターミナル フェーズ) に対応し、射程 20~30km(航空自衛隊公表値は数十km)の範囲を防御します
PAC-3による防護範囲は、速度がマッハ6強(2km/秒)程度となる短距離弾道ミサイル(SRBM)に対しては、発射機より左右に各35km、前に40km、後に10kmの扇状の範囲(ギターピックの形状・フットプリント)を迎撃できるとされますが、日本が対応しないといけない中距離弾道ミサイル(MRBM)(速度マッハ10=3.7km/秒)の場合、半径
20kmの扇状の範囲とみられています
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開発 |
レイセオン、ロッキード・マーティン共同 |
PAC-3 |
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翼幅 |
51cm |
弾体径 |
25cm |
重量 |
320kg |
上昇限度 |
15,000m |
対弾道弾射程 |
20km |
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PAC-2 |
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翼幅 |
84cm |
弾体径 |
41cm |
重量 |
900kg |
上昇限度 |
24,000m |
対航空機射程 |
70km |
対弾道弾射程 |
20km |
日本の弾道ミサイル防衛 現状と課題
課題 |
現状 |
飽和攻撃
への対応 |
北朝鮮の「スカッド」は 約 800発 「ノドン」は 約 200発
4隻現有するイージス艦 SM3は 1隻当たり 8発
イージス艦は 8隻に増強予定
34基配備する パトリオット PAC3は 1基16発 (改良型は 12発) |
ロフテッド軌道
攻撃への対応 |
イージスシステム SM3の最高高度は 約 500キロ
改良型 イージスシステム SM3 ブロック2Aは 1,000キロ超
2017年7月28日 北朝鮮が発射した「火星14」は 高度 37,24.9キロ |
EMP
(電磁パルス)
攻撃への対応 |
イージスシステム SM3により 起爆前に迎撃
防衛施設は地下に自家発電装置があり対応可能
都市機能の防護策はなし |
防衛範囲 |
現行イージス艦は 3隻で全国をカバー
新型イージス艦は 2隻、および、導入予定のイージス アショアは 2基で全国をカバー
パトリオット PAC3は 防衛範囲は 約 20キロ (改良型で 2倍になる予定)
大都市圏を中心に 34ヵ所に配備 |
コスト |
イージスシステム SM3は 1発 20億~30億円
パトリオット PAC3は 1発 約 5億円
米トランプ大統領が日本への売却を認めた「トマホーク」巡航ミサイルは 1発 約 1億円 |
迎撃後 |
パトリオット PAC3で迎撃しても 100キロ超の破片が数十キロの範囲に飛散の恐れ
化学 ・ 生物兵器が搭載されている場合は 化学 ・ 生物兵器が飛散の恐れ |
EMP(電磁パルス)攻撃は、核爆発で放出されるガンマ線が大気と衝突する際、大量に発生するEMP(電磁パルス)で地上の電気 ・ 通信系統などをまひさせ、都市生活や防衛網に打撃を加える手段で、北朝鮮は
2017年9月3日の「水爆実験」の後、EMP攻撃が可能と主張しました
ただし、北朝鮮が大気圏再突入技術を獲得していないとみられるとの声に応える形で唐突に出された主張の為、大気圏再突入技術がなくても攻撃できると言いたかっただけともみられ、実効性に疑問が呈されています
小野寺五典防衛相は、2017年9月9日、「唐突感がある。現実的に兵器になって、各国がそのための準備をしているレベルまではいっていないのではないか」と指摘、北朝鮮が実戦で使用可能な段階には至っていないとの見方を示すととmに、「ミサイルが大気圏に入る前で迎撃するのが弾道ミサイル防衛だ。EMP(電磁パルス)に対してもちゃんとした能力を持つことが基本だ」と語り、BMDなどにより
EMP攻撃に対応する考えを表明しています
日米両国が開発を進める新型迎撃ミサイル「イージスシステム SM3 ブロック2A」は、高度 1千キロ以上での迎撃が可能で、地上数十~数百キロで核爆発させるEMP攻撃に対抗する手段となり、イージス
アショアもブロック2Aの運用を想定しています
防衛省はイージスシステム SM3による迎撃が失敗すれば、着弾直前に地対空誘導弾パトリオット PAC3で迎撃する二段構え構成をとっています
北朝鮮が 2017年7月28日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」は通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で高度 約
3,700キロに達しており、現行イージスシステム SM3の最高高度は 約 500キロ、改良型 イージスシステム SM3 ブロック2Aでも 1,000キロ超とされ、射程高度まで落ちてきたときには速度も増しているため、迎撃は一層困難です
北朝鮮は西日本を射程に収める弾道ミサイル「スカッド」を 800発、日本全域を射程に収める弾道ミサイル「ノドン」を 200発保有し、防衛省は 弾道ミサイル(BMD)対応イージス艦を
4隻から 8隻に増強する計画ですが、1隻に搭載する迎撃ミサイル SM3は 8発、全国に 34基配備するパトリオット PAC3は大都市圏などの拠点防衛が役割で、対処能力を超えた大量のミサイル発射による「飽和攻撃」を仕掛けられると対応できません
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