沖ノ鳥島 活動拠点整備事業 国土交通省 港湾局
沖ノ鳥島 活動拠点整備事業について評価、検討された、「交通政策審議会 港湾分科会 平成22年度第1回 事業評価部会 資料3-8-2」の要項をご紹介します
沖ノ鳥島における活動拠点整備事業
新規事業採択時評価 平成22年8月 国土交通省港湾局
1.事業の概要
(1)事業の目的
海洋資源の開発・利用、海洋調査等に関する海洋での活動や、これらの活動を支援する各種の施設の維持管理等の活動が、本土から遠く離れた海域においても安全かつ安定的に行われるよう、沖ノ鳥島において、輸送や補給等が可能な活動拠点を整備する。
(2)対象事業
・ 整備施設 : 岸壁(水深8m)・泊地(水深8m)・臨港道路
・ 事 業 費 : 750億円
2.事業の必要性
(1)沖ノ鳥島の現状
我が国の国土の最南端に位置し、東京(23区)から約1,700km(小笠原群島父島から約900km)離れ約42万km2の排他的経済水域の面積、を有する島であり、東小島及び北小島並びにそれらを取り囲む東西4.5km、南北1.7kmの環礁で構成されている。同島はフィリピン海プレート上にあり、人間活動による周囲環境への影響が少なく、陸域の影響を受けない太平洋上の孤島である。
なお、従前から島の侵食対策として、護岸の設置等による保全工事が実施されており、国土保全上重要な施策となっている。
「 資料3-8-2 沖ノ鳥島における活動拠点整備事業 新規事業 ... - 国土交通省 」 より
(2)沖ノ鳥島における港湾の必要性
【①沖ノ鳥島における保全工事等の作業の効率化】
沖ノ鳥島では、関係機関による護岸の保全工事や調査・研究等が行われているが、港湾施設がないため、沖合で本船から小型船や台船に必要な資機材を積み換えて運搬を行っている。
港湾の整備によって本船が島に直接接岸することができ、資機材の陸揚げや作業員の上陸など、現地における作業の安全かつ効率的な実施が可能となる。
沖ノ鳥島における保全工事等の作業の現状
「 資料3-8-2 沖ノ鳥島における活動拠点整備事業 新規事業 ... - 国土交通省 」 より
【②海洋資源開発の拠点形成】
平成22年7月13日に閣議決定された「排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する基本計画」(以下「基本計画」という。)において、我が
国の排他的経済水域等に存在する鉱物資源に係る主権的権利を適切に行使し、その円滑な開発・利用を推進することとされている。
海洋資源開発にあたっては、掘削船や運搬船等への補給や、採掘した鉱石の積み換え等のため、近隣に船舶の係留・停泊等が可能な拠点が必要となる。
沖ノ鳥島周辺海域は、コバルトやニッケルを含有したクラストの賦存が期待されていることから、港湾の整備によって、排他的経済水域(EEZ)における海洋資源の開発効果が期待される。
3.費用対効果分析
(1)事業の効果
沖ノ鳥島に港湾を整備することにより得られる効果として、以下の項目を計上する。
1)保全工事等の作業の効率化
沖ノ鳥島での工事や研究等に必要な資機材の陸揚げ等に要する日数を短縮することによる傭船
コスト削減
2)海洋資源開発の推進
EEZ内におけるコバルト及びニッケルの開発による便益
(2)定性的効果
今回は便益として計測はしないが、沖ノ鳥島に港湾を整備することにより、以下の効果も期待される。
1)周辺海域における海洋調査の促進
沖ノ鳥島周辺海域では、気象庁等による海洋・気象観測等が行われているが、燃料・水・食糧等の補給や調査機材の交換等の必要が生じた場合、活動海域から遠く離れた離島まで移動するか、いった
ん本土まで戻らざるを得ない状況となっている。
今後、港湾の整備と併せて、海洋調査等の拠点として必要となる支援体制が整い、沖ノ鳥島において補給等が可能となれば、調査船舶等の運航効率化が図られることから、周辺海域における海洋調査
の促進が期待される。
2)沖ノ鳥島の利活用の促進
前述の「基本計画」では、沖ノ鳥島において、厳しい自然環境特性をいかした新素材の開発や、その特徴的な生態系の調査・研究、地殻変動観測や海洋循環構造に関する観測等を推進していくことと
されている。
港湾を早期に整備することによって、資機材や作業員の安全かつ効率的な輸送が確保され、沖ノ鳥島の利活用の促進につながるものと期待される。
3)保全工事等の安全性の確保
沖ノ鳥島での保全工事等にあたっては、作業員が外洋で本船から小型船に乗り換えて移動せざるを得ないのが現状である。
港湾を整備することにより、作業員は直接島に上陸することが可能となることから、安全性の更なる向上が図られる。また、島内に拠点を形成することにより、作業環境の向上も期待される。
(3)便益計算
1)保全工事等の作業の効率化
港湾の整備を行うことにより、工事や研究等に必要な資機材の陸揚げ等に要する時間を短縮することができるため、現地における滞在日数短縮による追加傭船料の削減分を便益として計上する。
※便益 = ( 【without時】 現地滞在日数 - 【with時】 現地滞在日数 ) X 傭船料 X 運航回数
項目 |
With時 |
Without時 |
現地滞在日数(日/回) |
10 |
11 |
傭船料(万円/日) |
100 |
運航回数(回/年) |
7 |
保全工事等の作業の効率化便益万円/年) |
700 |
2)海洋資源開発の推進
沖ノ鳥島に港湾が整備されることにより、EEZ内におけるコバルトやニッケルの開発が見込まれることから、これらの資源の生産額から生産コストを減じたものを便益として計上する。
※便益 = |
|
(【with時】海洋資源の生産額 - 【with時】海洋資源の生産コスト) - (【without時】海洋資源の生産額 - 【without時】海洋資源の生産コスト) |
コバルト |
主要用途は、携帯電話、ノートパソコン等に使用されるリチウムイオン二次電池で、その生産量は2001年以降増加している。その他の応用製品としては、航空機等に使用される特殊鋼(耐摩耗性・耐熱性に富む)、ビデオテープや音響機器等に使用される磁石等であり、我が国産業を支える重要な鉱物である。
コバルトを中性子照射することにより得られるコバルト-60は、ガンマ(γ)線源として使用され、厚さや密度を計る工業用測定器、食品の殺菌、がんの放射線治療、及び植物の品種改良など、様々な分野で広く利用されている。
さらに、ハイブリッド自動車向けのニッケル水素電池としても使用されることから、今後の環境規制の強化による低排出ガスの自動車の開発・生産の増大により、需要も更に増大する可能性がある。
我が国では、コバルト地金等の原材料のほぼ全量を海外からの輸入に依存している。また、コバルト消費量は世界一位(約25%)で、次いで中国(約23%)、米国(21%)が後に続く。[2006年時点] |
ニッケル |
ニッケルは、銀白色を呈し、硬く、可鍛性があり、硬度や耐蝕性のある鉄鋼材料として、ステンレス鋼や特殊鋼、メッキ板、ニッカドやニッケル水素電池等に幅広く利用されている。その他にも磁性材料、非鉄合金、触媒等、用途は多岐にわたる。
我が国では、ニッケル地金等の原材料のほぼ全量を海外からの輸入に依存している。また、我が国のニッケル消費量は中国(約28%)に次ぐ第2位(約12%)であり、米国(約10%)、ドイツ(約7%)が後に続く。
[2008年時点] |
海洋資源の生産額
項目 |
With時 |
Without時 |
海洋資源の生産額(億円/年) |
281 |
0 |
海洋資源の生産コスト
項目 |
With時 |
Without時 |
|
採掘コスト(億円/年) |
126 |
0 |
選鉱コスト(億円/年) |
9 |
0 |
採掘船から沖ノ鳥島までの輸送コスト(億円/年) |
11 |
0 |
沖ノ鳥島から本土までの輸送コスト(億円/年) |
11 |
0 |
製錬コスト(億円/年) |
46 |
0 |
海洋資源の生産コスト(億円/年) |
203 |
0 |
<海洋資源開発の推進による便益>
項目 |
便益 |
海洋資源開発の推進による便益(億円/年) |
78(=281-203) |
(4)費用計算
1)事業費
港湾の事業費は、初期投資費用として事業開始年度より6年間計上する(6年間合計で714億円(税抜)を計上)。
事業費の内訳については以下のとおり。
項目 |
金額(億円) |
岸壁 |
478 |
|
本体工 |
1 436 |
荷捌地 |
42 |
泊地 |
34 |
|
浚渫工 |
34 |
臨港道路 |
238 |
|
道路工 |
1 100 |
作業台(土台工含む) |
138 |
合計 |
(税込) |
750 |
(税抜) |
714 |
2)管理運営費
管理運営費は毎年2億円(税抜)を計上する。
管理運営費の内訳については以下のとおり。
項目 |
金額(億円) |
施設の点検・維持補修費 |
1.2 |
資機材等の運搬費 |
0.8 |
合計(税抜) |
2.0 |
(5)費用便益分析
事業着手時点から施設供用後50年間までの費用及び便益について、それぞれ社会的割引率4%を用いて現在価値に換算し、これらをもとに費用便益比(CBR)等を算出した。
B:便益(現在価値化後) |
1,161(億円) |
|
保全工事等の作業の効率化に係る便益 |
1.1(億円) |
海洋資源開発の推進に係る便益 |
1,160(億円) |
C:費用(現在価値化後) |
641(億円) |
|
費用便益分析結果 |
|
費用便益比(CBR)B/C |
1.8 |
純現在価値(NPV)B-C |
519(億円) |
経済的内部収益率(EIRR) |
8.4(%) |
|
感度分析結果 |
|
需 要(-10%~+10%) |
1.6~2.0 |
建 設 費(+10%~-10%) |
1.7~2.0 |
建設期間(+10%~-10%) |
1.8~1.8 |
【巻末資料】
排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する基本計画(抄)
1.低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する基本的な方針
(3)排他的経済水域等の保全及び利用に関する活動の方針
低潮線の保全及び拠点施設の整備等の措置により開発・利用の促進が期待される天然資源に関しては、我が国の排他的経済水域等に多様で豊富な水産資源やメタンハイドレート、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト等の海洋エネルギー・鉱物資源が存在していることを踏まえ、これらの資源に係る主権的権利を適切に行使し、その円滑な開発・利用を推進する。 |
3.特定離島を拠点とする排他的経済水域等の保全及び利用に関する活動の目標に関する事項
(2)特定離島を拠点とした活動の目標
ア.サンゴ増殖技術の開発・確立による国土保全
サンゴ礁の島では、国土保全対策の一つとして、サンゴや有孔虫などの島を形成する材料となる生物の生産を高め、生産されたサンゴの砂礫(れき)等を堆積させることによって、島の保全・再生を図ることが有効な手段と考えられている。
そのために必要なサンゴ種苗生産技術、増殖基盤や効率的な移植技術等、一連のサンゴ増殖技術を開発・確立する。
また、得られたサンゴ増殖技術等により、海面上昇の問題に直面する環礁国家に対して、島の保全・再生に必要な技術協力を実施する。
イ.海洋鉱物資源開発の推進
平成21年3月に総合海洋政策本部で了承された「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」に基づき、鉱物資源(コバルトリッチクラスト)の存在が期待される特定離島周辺海域において、資源の賦存量・賦存状況等のポテンシャルを把握するための基礎的調査を実施する。
当該調査によって得られた成果を踏まえ、特定離島周辺海域における海洋鉱物資源の開発及び商用化を目指す。
ウ.持続的な漁業活動の推進
特定離島周辺海域は、漁場としての可能性が期待されている。当該海域において漁場調査を実施するとともに、漁業活動を支援するための漁場等の水産基盤の整備等について検討を進める。
また、国民が持続的に経済活動を実施できるよう、適切な水産資源の管理を実施する。
エ.海洋における再生可能エネルギー技術の実用化に向けた取組
地球温暖化が進行する中、全世界で二酸化炭素排出削減を目指した再生可能エネルギーの活用が推進されている。しかしながら、我が国の海流・潮流発電、波力発電、海洋温度差発電等の海洋における再生可能エネルギーの実用化のためには、実証実験が必要とされており、大学や研究者からは効率的な実証試験を行うことのできる施設構築についてのニーズがある。
これについて、特定離島及びそれらの周辺海域の自然環境、当該地域のエネルギー需要などの様々な検討要素を踏まえて、海洋における再生可能エネルギー技術の実証試験場としての可能性について検討する。
オ.自然環境をいかした新素材の開発
沖ノ鳥島は、その厳しい自然環境特性をいかし、海洋構造物の構造部材として用いることのできる新素材(繊維系複合材、超耐食性金属等)の技術評価試験を実施することに適していることから、技術評価試験の実施により新素材を開発する。
カ.人為的影響を受けない環境をいかした地球環境の観測等
島の特徴を踏まえた観測活動として、地上及び高層の気象や、温室効果ガス濃度等の観測を長期継続的に実施している。
特に、南鳥島は国連専門機関である世界気象機関(WMO:WorldMeteorological Organization)における全球大気監視(GAW:Global
Atmosphere Watch)計画の中で、世界26か所の観測点のうちの一つに指定され、我が国唯一の観測点となっている。
今後も、観測環境を保全しつつ、同計画に資する温室効果ガス濃度等の地球環境の観測を実施する。
また、海象データの取得・活用による津波対策等防災への取組を推進する。
キ.広域的な地殻変動観測
全国約1,200か所に設置された電子基準点(GPS連続観測点)とGPS中央局(茨城県つくば市)からなるGPS連続観測システムを運用しており、特に南鳥島及び沖ノ鳥島に設置されている電子基準点は、それぞれ太平洋プレート、フィリピン海プレートの運動を観測する上で、なくてはならない重要な観測点とされている。
今後も、GPS連続観測システムの運用によって、広域な地殻変動の連続的な観測を実施し、適切な国土管理を推進する。
ク.観測・研究活動の拠点としての環境整備
大学や研究機関等においては、島の特徴をいかした地球規模での環境関連の観測や、生態系、地球内部構造、海洋循環構造に関する観測を行う等の研究活動の拠点として利用することについてのニーズがある。
このようなことから、研究者の島への移動手段や研究・宿泊施設等の利用に関するルール作りや関係省庁が行う協力・支援の枠組みなどについて検討を進める。
ケ.持続可能なエネルギーモデル
我が国本土から遠隔地にあり、周辺を海に囲まれた離島においては、島で必要とするエネルギーを太陽光、風力等の再生可能エネルギーで賄うことが効率的であり、また、環境に配慮した二酸化炭素の排出削減を推進する上でも重要である。
このようなことから、両島における活動にあたっては、必要とするエネルギーを再生可能エ
ネルギーで賄う仕組みを構築するといった実験的な取組について併せて検討する。
コ.海洋保護区の設定等による生態系の適正な保全
両島及び周辺海域は孤立した地理的条件から、特徴的な生態系が維持され、かつ、サンゴ礁等は魚類を始めとする多様な生物の生息・生育の地となっていることから、これらの生態系及び海洋環境の適正な保全を総合的に推進する必要がある。
このため、生態系の調査・研究やその保全への取組を行うとともに、現在進められている我が国の海洋保護区の設定の在り方に関する検討を踏まえ、海洋保護区の設定等による生態系の適正な保全方策について検討する。
サ.教育・観光の場としての活用等
我が国の海洋権益を確保する上で、両島が重要な役割を果たしていることを広く国民一般に周知することは重要である。
このため、島への寄港や島に近接する航路をとる旅客船クルーズを企画・推奨する等により、海洋に囲まれた日本の国土の特色についての見識を深めることのできる教育や観光の場としての活用について検討する。また、気象情報の提供、イベント等を通じて、国民に両島を周知する方法等を検討する。
シ.特定離島の活動を支援するための海洋データ収集、海上の安全の確保等
特定離島の利活用を円滑に推進していくためには、特定離島周辺における海潮流等海洋の特性を的確に把握することが必要であることから、これら周辺海域において海潮流観測等を実施し、基礎データを収集する。
また、特定離島周辺海域における海上交通や海上利用の状況を把握し、必要に応じて灯台等の航路標識を整備する等により、海上交通の安全を確保する。 |
4.拠点施設の整備等の内容に関する事項
(2)特定離島港湾施設の整備に関する内容
イ.沖ノ鳥島
国土交通大臣は、沖ノ鳥島及びその周辺海域で活動する船舶による係留、停泊、荷さばき、北小島等への円滑なアクセス等が可能となるよう、岸壁、臨港道路等の特定離島港湾施設の整備に必要となる現地測量調査等を行い、早期の整備を目指す。 |
本資料は、「 資料3-8-2 沖ノ鳥島における活動拠点整備事業 新規事業 ... - 国土交通省 」 からの要点のみの抜粋になります
各数字の算出根拠等詳細につきましては、「 資料3-8-2 沖ノ鳥島における活動拠点整備事業 新規事業 ... - 国土交通省 」をご参照下さい
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